Celebrity
ゆっくりと歩き出すようなリズムとIUの低く落ち着いた声ではじまるこの曲を耳にするたび、不意打ちのように胸が締めつけられる。何度も聴いている曲のはずなのに、そのたびに私の中で何かが大きく揺れる。
”celebrity”という単語には、一般的に「有名人/セレブ」のような意味がある。実際に、この曲のミュージックビデオにはIUが「有名人/セレブ」を演じているような場面が存在する。しかし、その「有名人/セレブ」であるIUが歌う”celebrity”は、どこか世界の端っこのような感じを秘めている。周囲に馴染めないままで大人になってしまった人、他の人とは違うものをひたすら見つめて生きてきた人、そんな人のことを思い起こさせる。
そんなふうに感じるのは、私にもそんな友人がいるからだろう。飾らない心がときにひねくれてはじき出されてしまった人。どうやっても誰の言うことも聞けなくて、はぐれもの扱いされてきた人。ほんとうは誰よりも優しくて傷つきやすい人。
私が何もかもなくしてしまって、まっさらな荒野から一人で歩きださなければならなかったとき、勇気が出なくて一歩も動けなかったとき、会えなくてもその人はいつも味方でいてくれた。実際に会って話をしなくても、心の中ではいつも手を握ってくれた。
私がはじめてこの曲を聴いたとき、”celebrity”は「光」だと思った。あなたは私の光。あなたは私の祝福。直訳するとこれらの訳は間違っている。でも私にはそうきこえたのだ。
あなたはたぶん気づいていない。まぶしい光を放つその照明があなたを照らしていることに。だから、そのままでいいのだと私は言いたい。あなたは唯一無二で、私の光であり、祝福なのだから。
この曲を聴いていると、不器用な形の星から星へ、広大な宇宙を歩いているような気分になる。視線の先にあなたがいるから、私は歩くことができる。木々の葉が色づいてゆくように、髪が少しずつ伸びてゆくように、ただあなたがそこにいるだけで、光は少しずつ満ちてくる。